税制抜本改革法

2012/11/01 木曜日

気が付けば今年も残り2ヶ月。官公庁では昨日(10/31)までクールビズの実施期間だったようであるが、保険会社からは保険料控除証明書が届き、税務署からは年末調整の資料が届き、役所からは給与支払報告書が届いて、税務周辺では早くも年末モードに突入である。

来月中旬には平成25年度の税制改正大綱が公表される予定だが、以前にも書いたように平成23年以降の税制改正はねじれ国会や震災等の影響で不規則な形になっており、手続の流れも内容も読みづらくわかりづらい。

今年も年度改正のほかに、社会保障と税の一体改革の一環として「税制抜本改革法」が8月に成立している。

 

■法律の呼び名

正式名称は、「社会保障の安定財源の確保等を図る税制の抜本的な改革を行うための消費税法の一部を改正する等の法律」という。当初の法案では「~消費税法の」としていたが、その後の修正によって所得税と相続税の改正が削除されたため「等」が外された。

一般には、「消費税増税法案」と呼ばれることが多かったように思う。社会保障・税一体改革関連法の一つである。(「社会保障安定財源確保法」なんて呼び方、誰もしちゃいなかった…(11/9追記))

 

■経緯

 

■条文構成

当初は、「第一条~第七条+附則」という条文構成であったが、衆議院修正により第四条から第六条までが削除された。

  • 第一条 趣旨
  • 第二条 消費税法の一部改正
  • 第三条 消費税法の一部改正
  • 第四条 所得税法の一部改正(削除)
  • 第五条 相続税法の一部改正(削除)
  • 第六条 租税特別措置法の一部改正(削除)
  • 第七条 税制に関する抜本的な改革及び関連する諸施策に関する措置
  • 附則

 

■改正の内容

・消費税の税率の改正(改正法第2条及び第3条)

この結果、消費税等全体に占める地方消費税の割合は、20%(=1%÷5%)から22%(=2.2%÷10%)になり若干増えることになる。

 

・新設法人の免税事業者要件の見直し(改正法第2条)

課税売上高が5億円超の事業者が直接又は間接に支配する法人を設立した場合には、当該新設法人の資本金の額に関係なく、設立当初2事業年度について事業者免税点制度の適用除外となった。

 

・中間申告制度(改正法第2条)

直前期の確定消費税額(=基準額)が60万円以下の事業者について、中小企業団体からの要望により、任意に中間申告ができる制度が創設された。

任意の中間申告を行う際には「中間申告書を提出する旨の届出書」の提出が必要となる。一方、中間申告をやめる際には中間申告書の不提出で足りる。

 

・経過措置(改正法附則第5条)

税率の改正にあたっては、主に以下のような経過措置が設けられる。

  • 旅客運賃、映画入場料等 … 施行日前の前売り分
  • 電気、水道料金等 … 平成26年4月30日までに受領が確定する分
  • 請負工事等 … 平成25年9月30日までに締結した契約分
  • 資産の貸付け … 平成25年9月30日までに締結した契約のうち一定のもの
  • 役務の提供 … 平成25年9月30日までに締結した契約のうち一定のもの

 

■政府の検討課題(改正法第7条)

改正法第7条では、政府の検討課題として以下のような項目を挙げ、速やかに必要な措置を講じなければならないとしている。(といっても「番号制度」や「給付付き税額控除」などは速やかには導入できないようにも思うが…。)

(消費税関係)

  • 低所得者に配慮する観点から、番号制度、給付付き税額控除、複数税率の導入
  • 簡易課税制度のみなし仕入率の見直し
  • 消費税の円滑かつ適正な転嫁の観点から、指針の作成、不公正取引の取締強化等
  • 取引に際しての価格表示と消費税との関係
  • 医療機関等の消費税負担及び医療に係る消費税課税のあり方
  • 住宅取得に関する駆け込み需要及びその反動等の影響の平準化、緩和化
  • 消費税等の賦課徴収に関する地方公共団体の役割拡大

(所得税関係)

  • 公社債等に対する課税方式の変更及び損益通算の範囲の拡大
  • 給与所得控除のあり方
  • 年金課税のあり方

(法人税関係)

  • 実効税率引き下げの効果等

(資産課税関係)

  • 事業承継税制の活用促進等

 

■その他

  • 消費税率の引き上げにあたっては経済状況を好転させることを条件として実施するため、平成23年~平成32年までの平均において名目経済成長率3%程度、実質経済成長率2%程度を目指し総合的な施策を実施(改正法附則18①)
  • 消費税率の引き上げ前に、名目及び実質経済成長率、物価動向等の経済指標を確認し、経済状況等を総合的に勘案した上で、施行の停止を含め所要の措置を講ずる(改正法附則18③)
  • 所得税については、最高税率の引き上げ等による累進性の強化について平成24年度中に法制上の措置を講ずる(改正法附則20)
  • 資産税については、相続税の課税ベース、税率構造の見直し及び高齢者から若年世代への資産の早期移転の促進について平成24年度中に法制上の措置を講ずる(改正法附則21)

(「施行の停止」をする場合には、いつ頃判断するというのだろう…。)

 

参考)財務省広報誌「ファイナンス」2012.10月号(「社会保障の安定財源の確保等を図る税制の抜本的な改革を行うための消費税法の一部を改正する等の法律」について)

 

[訂正]当初、「社会保障安定財源確保法」と表記していた箇所のすべて(標題を含む)について、「税制抜本改革法」という表記に変更しました。(11/9)

 

(望月)