「働き方改革」について

2018/09/13 木曜日

働き方改革関連法案が今年の6月に成立し、7月に公布された。

施行時期は企業規模によって差が設けられ、来年の4月以降に中小企業に先行して大企業から施行となる。

 

法案の主な内容は以下のとおり。

Ⅰ.働き方改革の総合的かつ継続的な推進

Ⅱ.長時間労働の是正、多様で柔軟な働き方の実現等

  •  時間外労働の上限規制の導入
  •  中小企業における月60時間超の時間外労働に対する割増賃金の見直し
  •  一定日数の年次有給休暇の確実な取得
  •  高度プロフェッショナル制度の創設
  •  勤務間インターバル制度の普及促進
  •  産業医・産業保健機能の強化

Ⅲ.雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保

  •  非正規雇用労働者の正規雇用労働者との不合理な待遇差の改善
  •  労働者に対する待遇に関する説明義務の強化
  •  行政による履行確保措置及び裁判外解決手続き(行政ADR)の整備

法案成立以前より、「時間外労働の上限規制」「同一労働同一賃金」「高プロ」「裁量労働制」などについてはメディア等でよく取り上げられていたので、その正確な意味はともかく、言葉としてはすでに馴染みはある。(今回の法案では裁量労働制の拡大措置については見送られている。)

 

働き方改革は、この関連法案の成立・施行でゴールというわけではない。

法案成立一年前に公表された「働き方実行計画」では、9つの検討テーマと19の対応策が長期的なスケジュールと共に示されている。

それを見ると、今回の法案成立は働き方改革のはじめの一歩ということがわかる。先は随分と長いようだ。

 

実行計画で挙げられた9つの検討テーマとその主な対応策は以下のとおり。

  1. 非正規雇用の処遇改善→同一労働同一賃金の実効性確保、非正規社員の正社員化
  2. 賃金引上げと労働生産性向上→企業への賃上げの働きかけ、生産性向上支援など
  3. 長時間労働の是正→時間外労働の上限規制、勤務間インターバル制度など
  4. 柔軟な働き方がしやすい環境整備→テレワークのガイドライン刷新など
  5. 病気治療、子育て、介護等と仕事の両立、障害者就労の推進
  6. 外国人材の受入れ
  7. 女性や若者が活躍しやすい環境整備→女性のリカレント教育支援、就職氷河期世代等への支援
  8. 雇用吸収力の高い産業への転職・再就職支援、人材育成、教育の充実
  9. 高齢者の就業促進→継続雇用延長、定年延長、高齢者マッチングの支援

今回の法案は、この中の1、3、4辺りを中心にしたものといえるだろう。

 

働き方改革は働く人の視点に立ち、賃金などの処遇の改善、働く時間や場所などの制約の克服、キャリアの構築を目指すという触れ込みだが、一方、国の視点でみた場合には、少子化による生産力の減少という課題を克服するための改革、すなわち”一億総活躍社会実現に向けた最大のチャレンジ”という位置づけにある。

働く人の待遇を改善し、同時に国の生産力の向上を図るとなると、”いいことづくめ”の施策のようだが、逆にそれが働き方改革のわかりづらさに繋がっているようにも思える。

「生産力=労働時間×労働生産性」という図式から考えれば、「長時間労働の是正」と「生産力の向上」とは本来はトレードオフの関係にあるはずだが、働き方改革はその両方を目的にしている。

仮に働き方改革が「残業はするな、ただし業績は上げよ」と現場レベルで解釈されることにでもなれば、働き手は従来よりも強いプレッシャーの中に置かれることになるだろう。

 

実行計画で示された9つの検討課題は、”働き方”に関する課題という点では共通するものの、すべてが同じベクトル上にあるわけではないし、関連しているわけでもない。

もともとはそれぞれ別々の課題であったものを寄せ集め、(半ば強引に)パッケージ化したものが働き方改革だと考えた方が頭の整理はつきやすい。

そういう意味で、働き方改革の本質などを問うのはあまり意味はないだろう。

「働き方改革」という言葉が世に浸透し、改革のムードは作られた。

が、あまりに総花的な「働き方改革」という言葉は、今後、個々の課題に対して具体的な施策を実行する段階ではむしろその施策の目的を曖昧にしてしまうような気もする。

 

(望月)