マイホームに係る税制 ~所有者の要件

2013/09/10 火曜日

予定通り、来年4月から消費税の税率アップが実行される公算が高くなってきた。マイホームを建てるなら、できれば増税前にと考える人も多いに違いない。(税率が8%になってからの方が有利という試算もあるようだけれども。)

マイホームを建てる際には、その名義、すなわち所有者を誰にするかという問題がある。

資金の負担者とマイホームの名義人が違っていたり、あるいは資金の負担割合とマイホームの持分割合に大きな差があるような場合には、税務上、贈与税の問題が生じる可能性がある。が、問題はそればかりではない。

マイホームに関しては、その取得から保有、譲渡、相続、贈与に至るまで、様々な税制上の優遇措置が設けられている。そして、その適用にあたっては、家屋やその敷地の所有者に関して一定の要件が付されていることが多い。

一生に一度の大きな買い物であるマイホーム。それに係る税金も、特例適用の可否によって金額は大きく変わってくる。家屋や敷地の名義を決める際には、そのあたりも十分に考慮することが必要になる。

ということで、マイホームに係る税制上の各特例について、「所有者」に関わる適用要件に絞って比較検討してみた。当然のことながら、実際の適用に当たっては、それ以外の要件も満たす必要がある。


― 購入時 ―

(特例制度)

(適用対象となる取引)

  1. 自己の居住用家屋の取得
  2. 自己の居住用家屋及びその敷地の取得

特例の適用を受けようとする本人が「家屋の取得」=「家屋の所有者」になることが必要条件となる。敷地については必ずしも所有権を持つ必要はない。

家屋の所有権を持たずに、敷地だけに所有権を持つ場合には特例の適用はない。逆に、家屋の所有権をわずかでも有していれば、家屋及び敷地の本人持分の全てについて特例の適用がある。

なお、不動産取得税に関しては、新築住宅である場合には自己の居住用でなくとも軽減措置を受けられる。

 住宅ローン控除他 

(*1)先行取得の場合

家屋より先に敷地を先行取得する場合、その時点では家屋の所有者ではないが、一定の要件のもとで上記の特例の適用を認めている。3つの特例で要件の内容は異なる。

 

(特例制度)

(適用対象となる登記)

  1. 自己の居住用家屋の所有権保存登記
  2. 自己の居住用家屋の所有権移転登記
  3. 自己の居住用家屋の取得資金貸付け等に係る抵当権設定登記

居住用家屋の所有に関する登記が軽減措置の対象となるので、特例の適用を受けようとする本人が家屋を所有することが要件となる。敷地に関する登記については登録免許税の軽減措置はない。

 登録免許税

 

― 譲渡時 ―

(特例制度)

 (適用対象となる取引)

  1. 自己の居住用家屋の売却
  2. 自己の居住用家屋及びその敷地の売却

家屋の売却が適用対象であるので、特例の適用を受けようとする本人が、まず家屋の所有者でなければならない。敷地については、必ずしも所有者である必要はない。

家屋の所有権を持たず、敷地だけに所有権を持つ場合には、特例の適用はない。逆に、家屋の所有権をわずかでも有していれば、家屋及び敷地の本人持分の全てについて特例の適用がある。

 譲渡時

 (*1)家屋と敷地の所有者が異なる場合

上記のうち、下記の特例において、一定の要件のもとでの特例の適用を認めている。

(*2)家屋を取り壊した後に敷地だけを売った場合

上記のうち、下記の特例において、一定の要件のもとでの特例の適用を認めている。

  • 居住用財産譲渡の特別控除
  • 居住用財産譲渡の軽減税率
  • 特定居住用財産の買換え特例

(*3)災害により滅失した家屋の敷地を売った場合

災害があった日などから3年目の年の12月31日までに売った場合には、上記5つの特例制度すべてについて特例の適用を認めている。

 

 

― 相続時 ―

(特例制度)

(適用対象となる宅地等)

  1. 被相続人の居住の用に供されていた宅地等で、配偶者又は一定の要件を満たす親族が取得したもの
  2. 被相続人と生計を一にする親族の居住の用に供されていた宅地等で、配偶者又は一定の要件を満たす親族が取得したもの

「被相続人(又は被相続人と生計を一にする親族)の居住の用に供されていた宅地等」とは、措置法通達694-7において以下のように定義されている。

被相続人等の居住の用に供されていた家屋で、被相続人が所有していたもの(被相続人と生計を一にしていたその被相続人の親族が居住の用に供していたものである場合には、当該親族が被相続人から無償で借り受けていたものに限る。)又は被相続人の親族が所有していたもの(当該家屋を所有していた被相続人の親族が、当該家屋の敷地を被相続人から無償で借り受けており、かつ、被相続人等が当該家屋を当該親族から借り受けていた場合には、無償で借り受けていたときにおける当該家屋に限る。)の敷地の用に供されていた宅地等をいうものとする。

被相続人がマイホームとして利用していた場合に絞って考えると、家屋について被相続人又はその親族のいずれかが所有権を持たない場合、敷地に対して特定居住用宅地等としての特例の適用はないということになる。逆に、被相続人又はその親族が家屋の所有権をわずかでも有してれば、被相続人の有する敷地に対して特定居住用宅地等の特例の適用が可能となる。

「被相続人又はその親族が所有する家屋」の敷地であることが特例適用の前提となるので、家屋の所有者が第三者である場合には敷地全体について小規模宅地の特例の適用はない。また、家屋の一部に第三者の持分がある場合には、それに対応する敷地の一部について小規模宅地の特例の適用はない。(9/20訂正)

 無題

 

― 贈与時 ―

(特例制度)

(適用対象となる居住用不動産)

  1. 贈与を受けた配偶者が居住するための国内の家屋又はその敷地

居住用家屋とその敷地は一括して贈与を受ける必要はない。ただし、敷地のみの贈与については、下記のいずれかに当てはまることが特例適用の条件となる。

  1. 夫又は妻が居住用家屋を所有していること
  2. 贈与を受けた配偶者と同居する親族が居住用家屋を所有していること

 配偶者贈与

 

― 保有時 ―

(特例制度)

(適用対象となる固定資産)

  1. 住宅用地
  2. 新築住宅

住宅用地(敷地)と新築住宅(家屋)のそれぞれについて、軽減措置の適用がある。したがって、家屋に所有権を持たず、敷地だけに所有権を持つ場合でも、敷地に対して軽減措置の適用がある。

家屋については、自己の居住用であったとしても中古である場合には軽減措置の適用はない。

家屋及び敷地のいずれについても自己の居住用という要件は付されていないので、本人の居住用以外であっても軽減措置を受けることができる。

  固定資産税2

 

まとめ

冒頭に書いたように、マイホームについては、税制上、様々な優遇措置が存在するが、ここでいう「マイホーム」とは、基本的に「自己の居住用の家屋」を指し、その敷地を指すものではない。

しかし、居住する者が、家屋と共に敷地の所有権を有するケースでは、購入時と譲渡時の特例の多くで適用対象を敷地にまで拡げている。敷地の所有者の立場でみると、敷地のほかに家屋の所有権をわずかでも持つか持たないかで、購入時と譲渡時の税額が大きく変わる可能性があるということだ。

“マイホーム 敷地を持つなら 家屋もね”

そんな感じだろうか。

 

[訂正]「特定居住用宅地等の小規模宅地の特例」に関する本文と図の一部を訂正しました。(9/20)

 

(望月)