望月会計事務所

事務所ニュース

News 2001.8月号

望月会計事務所
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 暑中お見舞い申し上げます。

 早々に明けてしまった梅雨が懐かしくなる程、暑い毎日が続いております。ご自愛下さいます様お祈り申し上げます。

 それにしても、年々夏の暑さが厳しくなっているような気がします。これが地球的規模のものだとすると、南極の氷が心配になります。ある研究によれば、南極の氷が全て溶けてしまうと、世界中の海面が65メートル上昇するそうです。日本の水際で生活する私としては、そろそろ浮き輪とボートの用意をする必要があるのかも知れません。

1. 環境の変化とリスク感覚

 遠い南極の心配はともかく、物事を悪い方に考えることは、マイナス思考とか悲観論などと呼ばれ、一般にネガティブなイメージがあります。しかし、一方でプロ野球の名監督は、常に「最悪の場合」を想定しながら指揮をとるとも言われています。

 「最悪の場合」を想定することは、マイナス思考とか悲観論というよりは、危機意識あるいはリスク感覚と捉えるべきことでしょう。可能性としてあり得るリスクを事前に考慮し、その対処法を検討することは、極めて現実的、かつ合理的な行為だと思います。

 現在、社会は様々な局面で変化の激しい時代を迎えています。そして、そのような変化は、私たちの社会に新たな効用と共に、新たなリスクを生じさせることもあります。

 振り返ってみれば、自動車社会やIT社会の到来は、社会に効率性という大きなメリットをもたらしましたが、同時に、交通事故や環境問題、あるいはコンピュータウィルスやハッカー事件という、それまでにはなかったリスクをもたらしました。また、来年4月より始まるペイオフ制度は、我が国の金融再生を目的とするものではありますが、預金者には銀行にさえ預けていれば安全という考えの転換を迫ることになるでしょう。

 業種によっては、動くよりも動かないことの方がリスキーである、とさえ言われる今日、まず何がリスクなのか、という見極めが大切になると考えます。逆に、リスクを見ようとしない、考えようとしないことは、それ自体がリスクであると言っていいのかも知れません。

 赤信号をみんなで渡れば確かに怖くはありませんが、それによってリスク自体を回避することはできません。護送船団方式と言われた我が国の銀行業界のバブルから現在までの過程を見れば、それは明らかです。信用がなによりの商品であったはずの銀行、いざとなれば公的資金により救済される銀行は、本来、誰よりも自らの経営リスクというものに関して敏感であるべきだったはずです。しかし、バブル期という経済環境の中で、当時どれだけそのリスクを吟味し、「最悪のケース」を想定していたのかは疑問です。バブルの失敗から学ぶべきことの一つは、このリスク感覚ではないでしょうか。

 資格業と言われる弁護士や我々税理士の業界においても、規制緩和、自由化の波は確実に押し寄せています。広告、報酬、法人化など今まで規制対象であったものが、ここに来て一気に自由化されました。これは、我々税理士にとって、チャンスであると共にリスクでもあります。今後は一段と各事務所の力量が問われる時代になっていくものと覚悟しています。

 資本主義の社会ではこのような変化が必然のことだとしたら、また、あらゆる行為には本来、リスクが伴うのだとすれば、単にリスクを恐れるのではなく、それを受け入れる覚悟を持つことから始めなければならないでしょう。変化は、リスクのみをもたらすのではなく、同時にチャンスをももたらすことを忘れてはならないし、そもそも今の構造改革や規制緩和にしても、その目的はリスクの増大ではなく、ビジネスチャンスのオープン化であるはずです。

 「最悪の場合」を考慮に入れながら、したたかににチャンスを追求すること、すなわち、リスク感覚を持ち合わせたプラス思考が、今後、より大切になるだろうと考えています。

2. 株式少額譲渡益非課税制度の創設

 個人が所有期間1年を越える上場株式等を譲渡した場合、申告分離課税を選択すれば譲渡益から年間100万円までを非課税とする少額譲渡益非課税制度が、緊急経済対策関連法の一環として制定されました。期間は、平成13年10月1日から平成15年3月31日までで、対象となる上場株式等とは、上場株式、店頭登録株式、上場株式投資信託の受益証券を指します。

 平成13年度税制改正により、株式譲渡益の申告分離課税方式への1本化が平成15年4月まで延期され、それまでの期間は、申告分離課税と源泉分離課税の選択が可能となっています。源泉分離課税の税率は、譲渡益が売却代金の5.25%分出た場合を仮定して設定されていますので、譲渡益が5.25%以下の場合には申告分離を、5.25%以上の場合には源泉分離を選択するのが有利なのですが、今回の制度創設により、譲渡益が金額的に少額の場合には、5.25%以上であっても申告分離の方が節税になるケースが予想されます。

 昨年度より、個人の株式譲渡益課税については、税務当局や自民党などの間で議論が二転三転してきましたが、株価低迷の中、個人株主の株式市場への参加を促すための審議は現在でも継続中です。更なる税制の改正があり次第、逐次ご報告する予定でいます。

(書籍紹介)

「ザ・ゴール(The Goal)」

エリヤフ・ゴールドラット著 
ダイヤモンド社 1,600円

 著者曰く、日本で出版されると、この本に書いてあるノウハウが日本企業に吸収され、貿易問題に発展する恐れがあるため、しばらく日本での出版を見合わせていた、という本です。この本の出版当時(1980年代)、日本の企業はそれだけ他国に恐れられていたということでしょう。

 舞台は、あるメーカーの工場。本部より不採算のため工場閉鎖の最後通告を受けた工場長が、学生時代の恩師(物理学の教授)の協力のもと、一念発起して工場再建に奮闘する物語です。

 「会社の目的(ゴール)とは何か」「生産性とは何か」などのラディカルな問いかけに始まり、「問題の把握」「目標の設定」「仮説の立案」「実行」「達成」というゴールに至るまでの過程は、サスペンス小説のごとくスリリングです。

 著者自身も物理学の教授であったため、科学的な観点からの生産管理のカイゼン(改善)が一応メインテーマになってはいるものの、セクショナリズムや、工場長(トップ)の変貌が工員に与える影響などの経営全般の問題が、工場長自身の家庭の問題と絡められながら、リアルに描かれています。

 私としては、工場で採用される原価計算システムが、現場の生産システムに大きな変化があった場合に、経営判断の資料として全く機能しなくなる(実態を適正に表さなくなる)というエピソードに特に興味を持ちました。