2010年08月10日

年金の二重課税問題

夫が亡くなり、生命保険を年金の形で受給する際に、その年金に所得税は課税されるのか。この問題に関し、先日最高裁の判決が下された。結果は、ご存じの通り無罪!いや、課税なし。いや、正確には一部課税なし。

メデタシ、メデタシと言いたいところだが、この判決まで、長年(一体何年だろう?)、結果的に誤った課税が行われ、納税者が余分に納税をしてきた事が確定したわけで、税理士としては能天気に喜んでばかりはいられないところだ。

通常、還付請求は過去5年分までだが、今回の事案についてはそれ以前の分についても配慮すると野田財務大臣が発言したことで、グレーゾーン金利問題に続く“過払還付請求第2弾”の様相が強くなっている。せっかくなので心あたりのある方は、過去の確定申告書をチェックしてみてはいかがだろう。当所でお手伝いできることあれば、是非お気軽にお申し付けを。

とまあ、実務的にも大変なことになりそうなこの問題、理論上はどう考えれば良いのか。

例えば、保険金の受取方法が次のように選べる保険契約があったとする。
(コース1)保険金454.6万円の一括払い
(コース2)年金100万円の5年支給(年金総額500万円)

さて、どっちを選んだほうが得だろうか?答えは等価。少なくとも保険会社はそう見ている。だから選択できるようにしているわけで。ちなみに、ここでは利回りを5%と設定していて、(コース2)の年金の現在価値の合計額は454.6万円(*)となり、(コース1)の保険金と同額(等価)となる。
 (*)100万円+100万円/1.05+100/1.052+100/1.053+100/1.054=454.6万円←乗数がうまく表示されない!

ではこのような保険金に対し、従来、税金はどのように課税されてきたのだろうか。
(コース1)
・相続税:454.6万円を課税価格として課税
・所得税:課税なし
(コース2)
・相続税:500万円×70%=350万円を課税価格として課税
・所得税:5年に渡り毎年100万円を課税対象として課税

等価であるはずなのに、(コース1)と(コース2)では相続税の課税価格が異なる。これは変だ(納税者にとっては有利かも知れないけど…)。ということで、今年の税制改正で、(コース2)でも(コース1)と同額の課税価格となるような改正が行われている。改正前は(コース2)のような年金(定期金)を利用した相続税の節税策がもてはやされていたが、これによって封印されたことになる。

さて、問題の所得税。(コース1)では、所得税が課されないのに対し、(コース2)だとどうして所得税が課されるのか?それも100万円全額に?確かにこう考えるとどこか変であるように思われる。

今回の判決では、(コース2)でも、(コース1)と同様に所得税を全く課さないとしたわけではない。年金100万円全額には課税はしないが、一部には課税をするかもというニュアンスになっている。(このあたり判決文は少し曖昧な表現となっている)

で、その一部とは何かというと、年金総額と年金の現在価値合計額の差額だとし、判決文では、これを「運用益」と呼んでいる。

上記の例で言えば、「運用益」は以下のように計算される。
・年金総額:500万円
・年金の現在価値合計額(=年金受給権の時価=相続税の課税対象額):350万円
・運用益:500万円―350万円=150万円

つまり、年金総額500万円のうち、350万円は相続税の課税対象になり、残額150万円は5年に渡って所得税の課税対象になるというわけだ。これは、保険金を一括受給し、そのまま年5%で運用した場合の「運用益」に所得税が課されることと等しい効果と言える。

但し、先に述べたように昨年の税制改正によって、年金形式と一括払い形式の相続税評価額が同額になったため、今後は次のように計算されると思われる。
・年金総額:500万円
・年金の現在価値合計額(=保険金一括払い):454.6万円
・運用益:45.6万円

つまり、相続税課税対象額は増えるけれども、所得税課税対象額は減るということだ。

今回、年金受給権の評価方法の改正と最高裁判決のタイミングがやけに一致しすぎていて、ストーリーができていたかのような感じもするが、少なくとも従来よりは合理性のある課税になったことは確かであると思う。

一方、実務上は次のような問題もでてきそうで、当分この件については注目する必要がありそうだ。
・年金額のうち、どのように「運用益」を把握するのか
・「運用益」の所得区分は何か
・源泉徴収はどうするのか
・相続税が課されない場合でも、運用益のみを所得税課税とするのか

(望月)

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