使途秘匿金課税~大王製紙巨額貸付を例に

2011/09/27 火曜日

大王製紙の創業家一族の会長が、連結子会社数社から80億円を超す借入れをし、そのうちの50億円余りが現在も未返済のままというニュースがある。

会長を辞任はしたものの資金の使途については未だ説明を拒んでおり、会社では前会長に対する特別背任容疑での刑事告訴を検討中とのことだ。まだまだ色々と新たな事実や問題が出てきそうな本件だが、税法的にはどのような問題があるだろうか。

 

大王製紙の平成23.3期の有価証券報告書によると、平成23年3月末日現在、前会長に対し連結グループとして23億5千万円の「短期貸付金」がある。(この後さらに約60億円を貸付け、約30億円の返済がある)

この貸付金に対しては、「市場金利を勘案して利率を合理的に決定」した利息を計上しているとのことなので、いわゆる「認定利息」の問題はおそらくない。

では、「使途が明らかにされていない」貸付金について、会社に課税が行われることはないだろうか。

 

●使途秘匿金と使途不明金

「使途秘匿金」とは、法人がした支出のうち、相当の理由がなく、その相手方の氏名等を帳簿書類に記載していないものをいい、支出額の40%相当額が法人税に加算される。(租税特別措置法62条)

これに似た概念として「使途(費途)不明金」がある。「使途不明金」とは、法人が交際費等の名義をもって支出した金銭でその費途が明らかでないものをいい、当該支出額は損金に算入されない。(法人税基本通達9-7-20)

この両者は名称も内容も似ているが、下記の点で異なる。

  • 課税の態様 ⇒ 使途秘匿金は支出額の40%課税、使途不明金は損金不算入
  • 秘匿の意思 ⇒ 使途秘匿金は秘匿の意思があり、使途不明金は秘匿の意思がないものも含む
  • 経理処理 ⇒ 使途秘匿金は不問、使途不明金は損金経理されたもの
  • 制度の趣旨 ⇒ 使途秘匿金は違法支出等の抑制、使途不明金は使途不明支出の損金性の否認

両者の関係や違いについては、様々なサイトで意外なほど多様な説明がなされていているが、ざっくりと絵として描くと下記のようになる。(あまりに単純だが…)

今回の件では、貸付金として資産計上されているので「使途不明金」扱いされることはない。一方、「使途秘匿金」についてはどうであろう。

 

●使途は秘匿されているか

「会長への貸付」と明示しているのだから、会社としては使途を秘匿しているわけではないという見方もあり得る。しかし、措置法施行令38条3項では、以下のような規定がある

法第六十二条第一項の規定を適用する場合において、法人が金銭の支出の相手方の氏名等をその帳簿書類に記載している場合においても、その金銭の支出がその記載された者を通じてその記載された者以外の者にされたと認められるものは、その相手方の氏名等が当該法人の帳簿書類に記載されていないものとする。

今回は前会長自身が「今はまだ使い道は言えない」と言っているので、前会長以外の誰かに資金が渡った可能性は高く、それが前会長によって秘匿されているということであるから、この点では使途秘匿金の要件を満たしていると言える。

 

●帳簿記載の判定時期

現時点では使途は不明だが、例えば税務調査の際にその使途を明らかにしたとすると、使途秘匿金課税の適用はあるのだろうか。

措置法施行令38条では、相手方の氏名等の帳簿への記載の判定は、事業年度終了日あるいは確定申告書の提出期限の現況としている。したがって、税務調査の際に使途を明らかにしたとしても「時すでに遅し」で課税は行われる。

 

●制度の趣旨

上記のように条文を追っていくと、使途秘匿金として課税される可能性は低くはないように思える。

しかし、使途秘匿金課税は、平成5年のゼネコン汚職事件をきっかけとする企業の使途不明金を用いたヤミ献金や賄賂などへの社会的な批判を背景に、「企業が税務当局に対し相手方の氏名等を秘匿するような支出は違法ないし不当な支出につながりやすく、それがひいては公正な取引を阻害することにもなりかねない」という問題意識のもと制度化されたという経緯がある。(「」内は「平成六年度の税制改正答申」(政府税調)より)

つまり、使途秘匿金課税は自社の利益を目的とした違法ないし不当な支出の抑制を主たる目的とするものであって、今回の場合のように会社が利益を得ている訳ではなく、むしろ被害を被った側にいると考えられる場合にも、追い打ちのように課されるのかという疑問が残る。

実際には、この他に当時、代表権を有していた前会長の会社における権限の大きさの問題や資金受領者側の贈与税のほ脱問題、さらに会社としての管理、手続上の責任の問題等を総合的に勘案して、課税の可否の判断が行われることになるのではないかと考える。

 

●損益への影響

「同社は井川氏や創業家出身の2人の役員らから時価で50億円超の株式の提供を受けたため、「グループの損益に与える影響はない」としている」(前掲毎日jp)とのことだが、仮に使途秘匿金課税が行われれば、平成23年3月期を前提に計算すると、23億5千万円×40%=9億4千万円(現在残高約50億円を前提すると、50億円×40%=20億円)の追加的な税負担が生じることになる。

大王製紙の連結決算上の当期純利益は、平成22年3月期が15億5千万円の黒字、平成23年3月期は80億8千万円の赤字(この期に20数億円の資金が持ち出された!)であり、現進行期の平成24年3月期は30億円の利益が計上予定とのことである。

万が一の場合には、「グループの損益に与える影響はない」という税額ではないことは確かだ。

 

(望月)