自宅に賃貸アパートを併設すれば節税になるか

2015/01/28 水曜日

今年から相続税が増税されることに伴い、相続税の節税策が久々に注目を集めているが、かのNHKでも、この話題をニュース番組の中で取り上げている。

迫る相続税増税 加熱する“節税”ビジネス

ここでは、節税策の一つとして、自宅に賃貸アパートを併設する方法が紹介されている。

私は、昨年と今年の2回、たまたまテレビでこのニュースを見たのだが、その際、そのところどころに違和感を持った。そのニュース記事(上記リンク先)をもとに、その違和感の中身を検証してみたい。

 

「一部を賃貸住宅にすると、土地・建物とも大幅に評価額を減らせます」

このスキームのポイントは、自宅に賃貸アパートを併設することにより、「貸付事業用宅地」としての小規模宅地の特例の適用を受けるところにある。

貸付事業用宅地に該当すると、相続税の計算上、土地の評価額は5割減額される。(貸家建付地の評価減を加味すると計約6割の減額となる。)

しかし、被相続人の自宅を、配偶者や同居親族あるいは持ち家のない非同居親族(いわゆる「家なき子」)が相続する場合には、「特定居住用宅地」としての小規模宅地の特例の適用があり、8割の評価減ができる。

特例の適用対象面積も貸付事業用宅地よりも広いので、特定居住用宅地になった方が相続税の節税効果ははるかに大きい。

したがって、特定居住用宅地の特例が使えるケースでは、わざわざ自宅に賃貸アパートなど作る必要はなく、逆にそれを行ってしまうと相続税は減るどころか増えてしまう可能性が高い。

このニュースの事例では、賃貸アパートの併設によって「500万円の相続税が節税できる」ということなので、おそらく特定居住用宅地の特例が使えないケースなのだろうが、その辺りの説明が一切ないのが気にかかる。

「相続税の額は、持っている資産の状況や相続する家族の人数などによって大きく左右され」ると同時に、「どの財産を誰が相続するのか」によっても大きく違ってくる。そのことについても一言、言及すべきではないだろうか。

 

「もし私に万が一の時があったら、娘2人に相当な負担がかかる。」

上記のように、この事例では特定居住用宅地の特例が使えないケースと思われるので、おそらく相続人である「娘2人」(あるいはその配偶者)はそれぞれ持ち家を持っているものと推測される。

であれば、親の自宅に課税されたとしても売却して現金化することが可能なので、相続税の納税に際して「相当な負担がかかる」とは通常は考えづらい。

仮に、「ここを売らずに守ってほしい」という親としての意向があるのであれば、(厳しい言い方をすれば)その意向こそが娘達に「相当な負担」を与えてしまう要因になるといえるだろう。

 

「太田さんはローンを組んだこともあり、相続税はゼロになる見込みです。」

ローンを組み不動産を取得すると節税になるという話は従来から存在する。しかし、そのポイントは「ローンを組む」ことではなく、「不動産を取得する」ところにある。

すなわち、相続税の計算上、不動産の評価額は取得価額(時価)を通常下回るために節税となるのであり、ローンを組まず、手持ちの資金で不動産を取得したとしても、節税効果は同じである。

逆にいえば、「ローンを組んだ」だけでは節税にはならない。

また、この方法では、取得した不動産が大きく値下がりしたり、賃貸物件にしたものの空室状態になったりすると、節税額以上に財産を毀損する可能性がある。

まさに、「目先の利益に追われて下手な方法をとると、10万円の税金を安くするために1,000万円出すことになりかねない」。

不動産の価格が右肩上がりの時代であれば、そうしたリスクは少ないが、今はそういう状況にあるとは言えない。

 

「アパートを建設した住宅メーカーが保証をしているため、この男性の場合、入居者がいなかったとしても家賃相当分の収入が見込めるということなんですが、業者によってはそうした保証がないケースもあり、契約には注意が必要です。」

賃貸物件を取得した場合、家賃保証(サブリース)をすればリスクはない、とは言い切れない。

通常、賃貸物件への投資については、家賃収入だけでなく、修繕費や税金、ローン返済等をすべて考慮して長期的な資金収支の見込みを立て、投資実行の適否を総合的に判断する。

家賃保証のある場合でも、保証契約の期間や保証家賃の減額の可能性等を勘案しなければならない。

住宅メーカーが家賃保証しているから安心というニュアンスを視聴者に与えてしまうのは、やはりよろしくはないだろう。

 

以上、NHKニュースを見た際の私の違和感をもとに、色々とツッコミを入れてみた。

が、このニュースの趣旨は相続税の具体的な節税策の紹介にあるのではなく、それがビジネスとして加熱している現況を紹介することにある。

“相続税大増税時代の到来!”など、煽り気味の見出しもあちこちで見かけたりする中で、この記事は、三木教授の「今回の税制改正で、一般の人が受けたインパクトが大きかったことが推測できるが、それだけに冷静に対応していただきたい」というコメントでまとめており、その点は私も全面的に同意だ。

ただ、相続税対策は前提条件が違ってくると全く逆の効果が出てしまう怖さがあり、したがって具体的な節税策を電波に乗せる際には十分な配慮が必要ではないか、という税理士としての老婆心が疼いてしまった次第である。

 

PS. 上記と全く関係はないが、今春からBS放送で「あまちゃん」の再放送を英断!?したNHKに対しては、この場借りて心より感謝申し上げたい。

 

(望月)