税務運営方針、この崇高にしてイケてるもの

2013/11/07 木曜日

国税庁から発せられる文書というと、納税者にとっては、堅苦しくて、融通の利かない、おっかないものというイメージがあるが、中にはそうではないものも存在する。

例えば、法人税基本通達の前文には、次のような記述がある。

「この通達の具体的な運用に当たっては、法令の規定の趣旨、制度の背景のみならず条理、社会通念をも勘案しつつ、個々の具体的事案に妥当する処理を図るように努められたい。いやしくも、通達の規定中の部分的字句について形式的解釈に固執し、全体の趣旨から逸脱した運用を行ったり、通達中に例示がないとか通達に規定されていないとかの理由だけで法令の規定の趣旨や社会通念等に即しない解釈におちいったりすることのないように留意されたい。」

イイではないか!

また、所得税基本通達の前文にも同じような一文がある。

「… 通達を簡素化するとともに、なるべく画一的な基準を設けることを避け、個々の事案に妥当する弾力的運用を期することとした。したがって、この通達の具体的な適用に当たっては、法令の規定の趣旨、制度の背景のみならず条理、社会通念をも勘案しつつ、個々の具体的事案に妥当する処理を図るよう努められたい。」

ステキではないか!

が、何といっても一番イケてる資料といえば「税務運営方針」(昭和51年)だろう。

通達と同じく、国税庁長官から国税職員に向けての内部文書で、これまで一般に公開される機会は少なかった(この点では通達と異なる)が、情報化社会の今日では、いとも簡単にネット上で見ることができる。ちなみに国税庁のサイトには掲載されていない。きっと古い資料だからだろう(棒。

内容は、「税務運営の基本的考え方」に始まり、「調査と指導の一体化」や「納税者に対する応接」、「組織管理と職場のあり方」等々、税務行政運営全般について、かなり詳細に、かつ網羅的に記載されたものになっている。 行動理念、業務指針として一般にも参考になるところはあるのではないだろうか。

どうせタテマエだろ、という声も聞こえてきそうだが、税務行政の局面次第では、納税者にとっての実際の「タテ(盾)」になってくれる可能性もある。

ということで、目次と共に、文中のイケてる箇所を以下に抜粋してみた。以下、下線は望月によるものである。

 

………

 

税務運営方針(昭和51年国税庁)

 

第一 総論

1 税務運営の基本的考え方

(1)納税者が自ら進んで適正な申告と納税を行うような態勢にすること

「申告納税制度の下では、納税者自らが積極的に納税義務を遂行することが必要であるが、そのためには、税務当局が納税者を援助し、指導することが必要であり、我々は、常に納税者と一体となって税務を運営していく心掛けを持たなければならない。また、納税者と一体となって税務を運営していくには、税務官庁を納税者にとって近づきやすいところにしなければならない。そのためには、納税者に対して親切な態度で接し、不便を掛けないように努めるとともに、納税者の苦情あるいは不満は積極的に解決するよう努めなければならない。また、納税者の主張に十分耳を傾け、いやしくも一方的であるという批判を受けることがないよう、細心の注意を払わなければならない。」

(2)適正な課税の実現に努力すること

「国民の納税道義を高め、適正な自主申告と納税を期待するには、同じような立場にある納税者はすべて同じように適正に納税義務を果すということの保証が必要である。このため、申告が適正でない納税者については、的確な調査を行って確実にその誤りを是正することに努め、特に悪質な脱税に対しては、 厳正な措置をとるものとする。」

(3)綱紀を正し、明るく、能率的な職場をつくること

2 事務運営に当っての共通の重要事項

(1)調査と指導の一体化

「申告納税制度の下における税務調査の目的は、すべての納税者が自主的に適正な申告と納税を行うようにするための担保としての役割を果すことにある。すなわち、適正でないと認められる申告については、充実した調査を行ってその誤りを確実に是正し、誠実な納税者との課税の公平を図らなければならない。更に、調査は、その調査によってその後は調査をしないでも自主的に適正な申告と納税が期待できるような指導的効果を持つものでなければならない。このためには、事実関係を正しく把握し、申告の誤りを是正することに努めるのはもちろんであるが、それにとどまることなく、調査内容を納税者が納得するように説明し、これを契機に納税者が税務知識を深め、更に進んで将来にわたり適正な申告と納税を続けるように指導していくことに努めなければならない。調査が非違事項の摘出に終始し、このような指導の理念を欠く場合には、納税者の税務に対する姿勢を正すことも、また、将来にわたって適正な自主申告を期待することも困難となり、納税者の不適正な申告、税務調査の必要という悪循環に陥る結果となるであろう。」

(2)広報活動の積極化

(3)税務相談活動の充実

税務相談に当っては、正確で適切な回答をするとともに、納税者の有利となる点を進んで説明し、納税者に信頼感と親近感を持たれるように努める。また、苦情事案については、納税者が苦情を申立てざるを得ないこととなった事情を考え、迅速、適切に処理する。」

(4)納税者に対する応接

「税務という仕事の性質上、納税者は、税務官庁をともすれば敷居の高いところと考えがちであるから、税務に従事する者としては、納税者のこのような心理をよく理解して、納税者に接することが必要である。このため、税務署の案内や面接の施設の改善に努め、納税者が気楽に税務相談に来ることができるよう配慮するとともに、窓口事務については、納税者を迎えるという気持になって、一層の改善に努める。」

納税者の主張には十分耳を傾けるとともに、法令や通達の内容等は分かりやすく説明し、また、納税者の利益となる事項を進んで知らせる心構えが大切である。」

税務行政に対する苦情あるいは批判については、職員のすべてが常に注意を払い、改めるべきものは速やかに改めるとともに、説明や回答を必要とする場合には、直ちに適切な説明や回答を行うよう配慮する。」

(5)不服申立事案の適正かつ迅速な処理

不服申立ての処理に当っては、原処分にとらわれることなく、謙虚に納税者の主張に耳を傾け、公正な立場で適切な調査を行い、事実関係の正しい把握、法令の正しい解釈適用に努めるとともに、事案の早期処理を図り、納税者の正当な権利、利益の保護に欠けることのないように配慮する。」

「不服申立事案の適正、円滑な処理を通じて反省を行い、税務行政の改善に努める。また、広報活動を活発に行って、納税者のための権利救済制度の周知に努める。」

(6)部内相互の連絡の緊密化

(7)地方公共団体及び関係民間団体との協調

(8)電子計算組織の利用と事務合理化の推進

3 組織管理と職場のあリ方

(1)庁局署の関係

(2)適正な事務管理と職員の心構え

(3)職員の教育訓練

(4)綱紀の粛正

(5)職場秩序の維持

(6)職場環境の整備

(7)職員の健康管理

 

第二 各論

1 直税関係

(1)直税事務運営の目標と共通の重点施策

「限られた稼働量で最も効率的な事務運営を行うため、調査は納税者の質的要素を加味した上、高額な者から優先的に、また、悪質な脱漏所得を有すると認められる者及び好況業種等重点業種に属する者から優先的に行うこととする。このため、調査の件数、増差割合等にとらわれることなく、納税者の実態に応じた調査日数を配分するなど、機動的、弾力的業務管理を行うよう留意する。」

税務調査は、その公益的必要性と納税者の私的利益の保護との衡量において社会通念上相当と認められる範囲内で、納税者の理解と協力を得て行うものであることに照らし、一般の調査においては、事前通知の励行に努め、また、現況調査は必要最小限度にとどめ、反面調査は客観的にみてやむを得ないと認められる場合に限って行うこととする。なお、納税者との接触に当っては、納税者に当局の考え方を的確に伝達し、無用の心理的負担を掛けないようにするため、納税者に送付する文書の形式、文章等をできるだけ平易、親切なものとする。また、納税者に対する来署依頼は、納税者に経済的、心理的な負担を掛けることになるので、みだりに来署を依頼しないよう留意する。」

(2)各事務の重点事項

2 調査査察関係

(1)調査課事務運営の目標と重点事項

(2)査察事務運営の目標と重点事項

3 間税関係

(1)間税事務運営の目標と共通の重点施策

(2)各事務の重点事項

4 徴収関係

(1)微収事務運営の目標と共通の重点施策

(2)各事務の重点事項

5 不服申立て関係

(1)異議申立て関係

(2)審査請求関係

 

(望月)