もしも寅さんが100億円を寄付したら

2012/03/28 水曜日

寄付金税制については前々回の記事でその概要をみたが、では具体的な話として、寄付を行うと税金はいくら戻ってくるのだろうか?確定申告が終わったばかりの今、テーマとしては旬を過ぎた感はあるものの、この際この問題についてもケリをつけておきたい。

そこで、あのフーテンの寅さんが100億円寄付をしたら、というちょっと無理矢理の設定である。

-なぜ100億円なのか?

「どうせならば豪快に、と思いまして。(おかげでリアリティなくなりました)」

-なぜ寅さんなのか?

「それは単に、『もしトラ』というタイトルにしたかったから!(キリッ」

 

●控除計算式

寄付金税制には、控除計算式が計4つ出てくる。所得税における「寄付金控除」と「寄付金特別控除」、住民税における「基本控除額」と「特例控除額」である。住民税では「ふるさと寄付金」のみが「基本控除額」に「特例控除額」を上乗せすることができ、「ふるさと寄付金以外」は「基本控除額」のみとなる。

ここで、

P=寄付金-2千円

x=所得税率

I=所得金額

住民税率=10%

とすると、各控除制度の税額控除額及び制約式は次のように表わされる。なお、前提として寄付金は「震災関連寄付金」あるいは「特定震災指定寄付金」に該当するものとする。

右の制約式をすべて満たすとき、税額控除額ははじめて満額に達し、制約式を満たさない場合、税額控除額は一部減額される。

 

●所得税と住民税の寄付金税制の組合せ

寄付金の種類によっては所得税及び住民税の両方で税額控除の適用を受けられるが、その組合せとしては次の3つが考えられる。

(ケース1)寄付金控除+ふるさと寄付金

(ケース2)寄付金控除+ふるさと寄付金以外

(ケース3)寄付金特別控除+ふるさと寄付金以外

ちなみに「寄付金特別控除+ふるさと寄付金」の組合せは現行法ではありえない。

各ケースの税額控除額及び制約式を示すと以下のようになる。

(ケース1)ではP、すなわち「寄付金-2千円」が満額の税額控除額となり、(ケース3)ではその半分、そして(ケース2)では所得税率xによって税額控除額は変わる。

 

●事業所得など(総合課税)の場合

例えば、寅さんがテキヤ稼業で(事業)所得を得ている場合、所得税率(x)は総合課税の超過累進税率が適用され、所得金額によってその値は決まる。寄付金(≒P)を100億円、xを仮に最高税率の40%とすると税額控除額及び制約式は次のようになる。(以降、「-2千円」は無視する)

(ケース1)では、所得金額(I)が5,000億円以上のとき税額控除は満額の100億円となり、(ケース2)では所得が333億円以上のとき、(ケース3)では所得が400億円以上のとき、いずれも税額控除は満額の50億円となる。

 

上場株式等の譲渡所得(分離課税)の場合

一方、例えば寅さんの所得が上場株式等の譲渡によるものだった場合にはどうなるであろうか。上場株式等の譲渡所得の所得税率(x)は7%であるので、上記と同じく寄付金(≒P)を100億円とすると税額控除額及び制約式は次のようになる。

総合課税の場合と比べると、(ケース1)では税額控除100億円が実現する所得金額(I)が5,000億円以上から8,300億円以上に増え、(ケース2)では満額の税額控除が50億円から17億円に減る。また、(ケース3)では税額控除50億円が実現する所得が400億円以上から2,285億円以上にまで大幅に増える。(私の計算が正しければ)

 

●所得金額別シミュレーション

上記の各場合において、所得金額(I)が5億円、50億円、500億円である場合をシミュレートすると次のようになる。なお、「カバー率=税額控除額/寄付金」、「節税率=税額控除額/元の税額」とする。

・総合課税、分離課税ともに(ケース1)のパターンが税金上は最も有利となる。

・カバー率は、寄付金に対して所得金額が大きければ大きいほど、逆にいえば所得金額に対して寄付金が小さければ小さいほど上がる。

・カバー率の上限は(ケース1)では100%に、(ケース3)では50%に近くなる。(ケース2)では所得税率によって上限が異なってくる。

・節税率は、寄付金に対して所得金額が小さければ小さいほど、逆にいえば所得金額に対して寄付金が大きければ大きいほど上がる。

・節税率の上限は、総合課税の場合は72%程度、(上場株式等譲渡の)分離課税の場合は86%程度となる模様である。(私の計算が正しければ)

 

以上、節税のために寄付を行うわけではないけれども、寄付することにより自らの税金におおよそどのような影響が及ぶかということは、寄付を長く継続するためにも把握しておいた方が望ましい。

誰かが言っていたが、寄付金税制の適用によって還付された税金を翌年の寄付金の原資に回すというやり方も一つの方法だろう。

寄付金税制は、税金の使い道を納税者自らが意思決定できる唯一の制度であると言える。上手に、そして有効に活用したい。

 

(参考)

(寅さん以外に)100億円の寄付をした方の寄付先一覧

 

(望月)