非上場株式の評価 ~比準要素1のワナ

2018/02/01 木曜日

税務上、非上場株式の評価は相続税、所得税、法人税の各税法ごとに定められ、一部に違いはあるものの、実務ではいずれも財産評価基本通達(以下、評基通)をベースに行われている。

非上場株式の税務上の時価

215まである評基通のうち、178~189-7において「取引相場のない株式の評価」に関する規定が定められているが、それ以外の条項が非上場株式を評価する上で関係ないかと言えばそうではない。

純資産価額方式を用いる場合には、評価会社が保有するすべての財産について評基通に基づいた評価を行わねばならず(評基通185)、その意味では評基通の全ての規定が非上場株式の評価に関係していると言える。

 

●評価方式一覧表

非上場株式の評価にあたっては、「株主の態様」と「評価会社の種類」の組み合わせによって「評価方式」が決まる。一覧表で示すと以下のようになる。

 

●株主の態様

株主を持株比率などにより「支配株主」と「非支配株主」に区分し、支配株主には「原則的評価」を、非支配的株主には「特例的評価」を適用することになる。ただし、特例的評価が原則的評価を上回る場合には原則的評価が適用される。

 

●評価会社の種類

評価会社は「一般の評価会社」と「特定の評価会社」に大別され、「一般の評価会社」は規模別に大会社、中会社(大・中・小)、小会社に、「特定の評価会社」は会社の状況ごとに「比準要素1の会社」、「株式保有特定会社」など数種類に区分される。

・一般の評価会社 … 会社の規模は「従業員数」「総資産価額(帳簿価額)」「年間取引金額」によって判定する。平成29年税制改正においてその判定基準が一部改正された。

・比準要素1の会社 … 計算対象期間において3要素のうち2つがゼロで、かつ計算対象期間の前年において3要素のうち2つ以上がゼロの会社をいう。

・比準要素0の会社 … 計算対象期間において3要素の全てがゼロの会社をいう。

・株式保有特定会社 … 総資産に占める株式及び出資金の合計額の割合が50%以上の会社をいう。割合の算定において各資産の価額は評基通をもとに評価する。

・土地保有特定会社 … 総資産に占める土地等の価額の割合が一定割合以上の会社をいう。割合は評価会社の規模及び業種によってそれぞれ規定されている(表3)。割合の算定において各資産の価額は評基通をもとに評価する。

 

●評価方式

・純資産価額方式 … 評基通に基づいて評価した各資産の価額から負債の合計額及び評価差額に対する法人税額等を控除して算定する方法。

  • 課税前3年以内に取得した土地等は通常の取引価額で評価する
  • 法人税法上及び所得税法上は評価差額に対する法人税額等は控除しない
  • 株主及びその同族関係者の有する株式の議決権比率が50%以下である場合は算定価額の80%評価とする

・類似業種比準方式 … 上場会社の株価をもとに、配当金額、利益金額、純資産価額の3要素を上場会社と比較して算定する方法。

  • 配当金額 … 直近2年間に支払った経常的な配当金額の平均値
  • 利益金額 … 直前期又は直近2年間の利益金額(課税所得金額に非経常的利益等の調整を加えた金額)の平均値
  • 純資産価額 … 直前期末時の「資本金等+利益積立金」。純資産価額方式の「純資産価額」(評基通ベース)とは異なる。

・併用方式 … 純資産価額と類似業種比準価額にそれぞれ一定の割合を加味して算定する方法。類似業種比準価額のウェイトをLの割合という。Lの割合は表1参照。

・精算分配見込額 … 清算の結果分配される見込額の複利現価の額。

・S1+S2方式 … 下記のS1とS2を足し合わせた価額。

  • S1 … 評価会社に所有株式及び受取配当がないと仮定した場合の原則的評価方式による評価額
  • S2 … 評価会社が所有株式のみを有すると仮定した場合の純資産価額方式による評価額

・配当還元方式 … 配当金額を10%で割り戻して算定する方法。

  • 配当金額 … 直近2年間に支払った経常的な配当金額の平均値(類似業種比準方式の配当金額と同じ)

 

●実務上の留意点

一般に「純資産価額方式>類似業種比準方式」となることが多いため、純資産価額方式での評価が中心となる特定の評価会社の方が一般の評価会社に比べて評価額は高くなる傾向がある。

特に大会社の場合、一般の評価会社であれば類似業種比準方式のみで評価(L=1)できるので、特定の評価会社の評価額との差が大きくなる可能性が高い。

以下、実務上注意すべき事例をいくつか挙げてみる。

  • 内部留保の大きい会社で比準要素1になるケース ←実務でよく出てくるケース
  • 比準要素0で含み益が多額にあり時価純資産が大きいケース
  • 多額の株式や不動産を取得し株式保有特定会社や不動産保有特定会社になるケース
  • 内部留保の大きい会社がそのまま休業状態に入るケース
  • 大会社の中心的な同族株主が譲渡等を行うケース(小会社評価)

 

(参考)財産評価基本通達~取引相場のない株式の評価関係

 

(参考)取引相場のない株式(出資)の評価明細書(平成30年1月1日以降用)

  • 第1表 評価上の株主の判定及び会社規模の判定の明細書
  • 第1表の2 評価上の株主の判定及び会社規模の判定の明細書(続)
  • 第2表 特定の評価会社の判定の明細書
  • 第3表 一般の評価会社の株式及び株式に関する権利の価額の計算明細書
  • 第4表 類似業種比準価額等の計算明細書
  • 第5表 1株当たりの純資産価額(相続税評価額)の計算書
  • 第6表 特定の評価会社の株式及び株式に関する権利の価額の計算書
  • 第7表 株式等保有特定会社の株式の価額の計算明細書
  • 第8表 株式等保有特定会社の株式の価額の計算明細書(続)

 

(望月)